マリア・リス・バルチン『アロマセラピーサイエンス』
昨年末に買って、ずっと折に触れて読み返している本。いやー買ってよかった。
これまでアロマテラピーに関して抱いていた科学的ななぜ?どうして?の疑問について、化学を大学などで学んでいない私にも読めるような言葉で書かれている本に出会えました。
アロマテラピーは本当に科学的根拠あるの?というのは、アロマテラピーを楽しむ方なら一度は思ったことがあると思います。
なぜ飲んではいけないか
なぜ金額の違いがこんなに大きいのか
各精油の安全性・危険性の根拠はどこにあるのか
などなど。
アロマセラピストはマッサージで様々な種類の精油を使用する際に、「鎮静」効果があるとか、「覚醒」効果が得られるというような説明をすることが多い。ごく一般的に使用される表現なので、単に心理的なものなのか、薬理学的な効果を含めた生理学的な作用なのかを定義するのは難しい。(アロマセラピーサイエンス P60)
これ、アロマテラピーの本を読んでいると思うこと。
アロマテラピーには科学的な側面とスピリチュアルな面が混在しています。
そこがおもしろさでもあるのですが、両方混ざって記載されている本も多く、結局なんでなのかがよくわからないまま「そういうもの」として理解してしまっていることもある。
しかし本書ではこういう矛盾や疑問をすくって、科学者としての考え方を、過去の研究成果という根拠を示しながら結論づけていきます。
どこまでがわかっていることで、どこからがあいまいな状態なのかの線を引いてくれる総論。
30以上ついている付表の中には「科学者以外の人が臨床試験および論文の科学的価値を判断するためのガイド」なんかもあるので、初心者が読むことも想定されているのだと思います。
かつて読んだサイモン・シンの『代替医療解剖』は「代替医療」と呼ばれるものが本当に病気を治療できるのか?を検証してた本なのですが、アロマテラピーについては巻末付録にちょっと書いてあって、なってしまった病気を治療することはできないけど、リラックスやストレス緩和にはいいんじゃないの?の評価でした。(過去記事:科学的根拠のあることとないこと)
その理由や議論の背景をもっと知りたい…と思っていたので今回の『アロマセラピーサイエンス』を読むことで理解が深まりました。
あくまで今までの研究成果をもとにしています
とくに注目すべきは各精油のページにある「アロマセラピーにおける用法」の項目のなかの、<科学的注釈>の部分。
いわゆる普通教科書などで言われている各精油の効能(鎮静、緊張、循環器の各症状など具体的に示されているもの)に対して、化学的な根拠があるかどうかを述べている部分なのですが、ここが各精油の研究され度合いによって大きく違っていて興味深いんです。
ラベンダーなどのこれまで様々な研究で使われてきた材料についてなどについては、その結果がまとまって簡潔に述べられていて面白いんですが、サイプレスなどのマイナーであまり研究対象になっていない精油に対しては、以下のような辛辣にすら感じられる一言であっさり締めくくっています。
したがって、サイプレス精油に上記のような症状を軽減するような可能性はほとんどないと言える。
(アロマセラピーサイエンス P214)
研究されていない
ジュニパーのハーブを経口的に摂取する場合は数多くの利点があるが、希釈した精油をアロママッサージで使用する際の利点は、化学的には一切証明されていない。
(アロマセラピーサイエンス P248)
そしてたいていの精油で述べられているのはこれ
しかし、マッサージ単独でも多くのストレス関連のトラブルや筋肉の症状を改善できるため、マッサージを受けながら爽やかな香りを楽しむ程度であれば、使用することは可能である。
マイナー系精油はほとんどがこれに類した文言で締めくくられていて、ここだけ読み続けていると精油がほぼほぼただの芳香剤に思えてきて、アロマテラピーへのモチベーション下がることハヤテのごとし…
サイモン・シンの『代替医療解剖』のスタンスもこれ。
私も読めば読むほど、アロマテラピーは女の子が魔法使いもののアニメに夢中になるような「魔法のおくすり」でしかないのかなと思えたこともありましたが、ここだけ読んで「アロマテラピー効果ないじゃん」と結論づけるのは早いのではないか、と私は思っています。
というのはやっぱりここに書かれていることはかつて研究されてきたことでしかないから。
今ほど精油にスポットライトが当たっていなかった時代に研究されてきたことです。
商業的な価値が高まるにしたがって、アロマテラピーはもっと研究されて効能がほんとうにあるのかどうかがわかっていくのではないかと思っています。(だからそれを見続けるのが私のすべきことだと思っている)
そしてもう一つ大事なことは、まだわかっていないのに誇張されて効能が表現されていることが多いこと、そういうことを続けているとかえって発展の妨げになること。
特に体の症状については、なにかが「治る」と言い切ることをしないほうが親切だということは、この本を読めば骨身にしみて理解できます。
この本が私にもたらしたもの
私は精油のスピリチュアルな面も嫌いじゃない…というかむしろ積極的に楽しんでおりますので、そういう人こそ化学的な面に目配りしてバランスを取り、両者の区切りをはっきりつけた話し方をするのが大切だなと気持ちが引き締まりました。
あたかも病気が治るかのような誇張した表現をすることなく、
わかっていることとわかっていないことの境目をはっきりさせて話をする。
しかし心理的なリラックスを促すプラセボ効果を高めるようなスピリチュアルな側面はあくまで「ストーリー」として楽しめるよう、薬理的な作用とは別のものとしたスタンスでいる。
メディカルな側面とロマンティックでスピリチュアルな面という、文理の二面性を備えているところが私はアロマテラピーの好きなところなので、それを混在させずにきちんと分けて頭を整理できるようにするためには大切な本だと思いました。どっちか片方じゃ、なんだかもったいないと思えるのがアロマテラピーの魅力ですので、余計に境目ははっきりさせたほうがいいなと。
実際にセラピストとして活動されている方には、この本の辞書的性格が役に立つのだろうと思います。
69種類の精油について各論が書かれており、用法や活性のこれまでの根拠の他、毒性・禁忌・薬学的考察などがコンパクトにまとめられているからです。
原書は2005年に出版されたもので(日本で翻訳出版されたのは2011年)、もう12年も前の本になるため、きっとその後新たに論文も発見も出ているのだと思いますが、とりあえずここに書かれていることは全部頭データベースにぶっこみたいと思った本でした。